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ボクサーのタイプ -ドイツタイプとアメリカタイプ-


今日のボクサーは、大きく分けて2種類のタイプが存在します。
一つは、原産国であるドイツのボクサー、もう一つはアメリカのボクサーです。2種類のタイプといっても、ダックスフントのようにミニチュアやスタンダードというような意味合いではありません。

1940年代を中心に、アメリカのボクサー愛好家達が、ドイツから錚々たる名犬の数々を輸入し、それらの子孫が今のアメリカタイプのボクサーの基礎となっています。
アメリカ人は、ボクサーに限らず、あらゆる純血種の犬達を、原産国が目指したタイプから、自分たちの好みのタイプに変えていきましたが、アメリカのボクサーもそれに違わず、頭部から足の先まで、スマートでスタイリッシュなタイプに変貌し、ボクサーの基本的なキャラクターは失わぬまま、家庭犬としての扱いやすく穏やかな性質を伸ばしていったように感じます。

一方で、ドイツを中心とするヨーロッパのボクサーは、頑健で力強いタイプを保持しつつ、エレガントな気品を加えていきました。
また、家庭犬としては勿論のことながら、そもそも使役犬として改良されたボクサーという犬種の特質を重視し、IPOやSchH(現在はVPG)といった使役犬訓練をベースにして、ボクサーが持つ嬉々とした警戒心や闘争心といった性質を伸ばしていきました。

ドイツタイプのボクサーは、ドイツを中心とするヨーロッパ全土で繁栄し、アメリカタイプのボクサーは、アメリカ合衆国を中心に、南米、カナダ、アジアなどでも繁栄しています。
ただ、イギリスはやや特殊で、それは、かなり以前から、動物愛護の観点から断耳した犬を可能な限り国内に入れなかったために、ずっと昔にドイツやオランダから渡ったボクサーを基礎に、独自のブリーディングを続けたわけですが、基本的にはドイツタイプではあるものの、大陸のドイツタイプボクサーとはやや違い、イギリス独特のタイプを形成しています。
ただし、ドイツはじめ大陸の多くの国が断耳を禁止、あるいは任意にして以降のイギリスのボクサーは、大陸のドイツタイプボクサーの血を常に入れており、またドイツなどでは、昔からイギリスのボクサーを輸入して種牡に使うなど、結構多く血の交流が図られています。

日本はアメリカの影響を強く受けている国ですので、やはりアメリカタイプのボクサーが中心で、国内の繁殖頭数の約8割がアメリカタイプです。

国内の犬種団体に目を向けてみると、ドイツタイプの多くが、PD(社団法人日本警察犬協会)に登録され、アメリカタイプの多くがJKC(社団法人ジャパンケンネルクラブ)に登録されています。
一方で、スタンダードは、ドイツボクサークラブとJKCが、同じFCI(国際畜犬連盟)のスタンダードを採用しており、FCIに加盟していないPDとABC(アメリカボクサークラブ)は、各々FCIのスタンダードと若干違ったスタンダードを採用していいますが、これらのスタンダードもFCIのスタンダードと大きな違いはありません。
つまり、世界中どの組織も、ほぼ同じスタンダードの下に、審査、繁殖されていると言えます。

ちなみに、ドイツタイプとアメリカタイプが混在している国は、日本や韓国の他、東南アジア、南アフリカなど、極めて稀です。

以下に、その違いを見ていきましょう。


1.頭部

下の写真は、それぞれのタイプでタイトルを獲得している名犬達の頭部です。
頭部はボクサーという犬種において、稟性と並び最も重要視されているポイントです。
スタンダードついては、ドイツもアメリカも特に差異は認められませんが、写真を見てもこれだけの違いがあります。
私が認識している差異は、以下の通りです。
それぞれの比較でみてみましょう。
◇鼻梁の長さ
ドイツタイプとアメリカタイプでは、ほぼ倍程度の長さの違いがある。
すなわち、ドイツタイプは短く、アメリカタイプは長い。
ドイツタイプでは短すぎる犬が見受けられ、アメリカタイプでは長すぎる犬が見受けられる。
◇下顎
ドイツタイプは巻上げが強く、アメリカタイプは巻き上げが少ない。
アメリカタイプは、巻上げが不足している犬が見受けられる。
◇口吻
ドイツタイプは、縦に厚く、アメリカタイプは、横に広い。
ドイツタイプは、横に狭いものが見受けられ、アメリカタイプは、縦に薄いものが見受けられる。
◇ストップ
ドイツタイプは額まで高くつながり、アメリカタイプは額までの長さが短い。
◇額
ドイツタイプは丸くアーチを描き、アメリカタイプはアーチが少なく、平たい。
◇眼型
ドイツタイプは高さのある四角に近い菱形で、アメリカタイプは、長方形に近い菱形。
◇大きさ
ドイツタイプは、アメリカタイプに比べて、体躯に対してやや大きい。
ドイツタイプは、時折重過ぎるものが見受けられ、アメリカタイプは軽すぎるものが見受けられる。


<ドイツタイプ>
茶牡
<ドイツタイプ>
縞牡
<ドイツタイプ>
茶牝
<ドイツタイプ>
縞牝

<アメリカタイプ>
茶牡
<アメリカタイプ>
縞牡
<アメリカタイプ>
茶牝
<アメリカタイプ>
縞牝



2.体躯

下の写真は、それぞれのタイプを代表するトップボクサー達です。
体躯構成は、部分的には頭部ほどの違いは無いと感じていますが、見た目にボクサーの全体像を決定付けるので、全体的にはやはり大きく異なって見えます。
下の写真はそれぞれのタイプに属するトップボクサー達です。きっと写真でみるよりも、実物を見たほうがその違いがハッキリ確認できると思います。
スタンダードについても、頭部と同様に大きな差異は認められません。
私が認識している差異は、以下の通りです。
それぞれの比較でみてみましょう。
◇全体像
ドイツタイプは、アメリカタイプよりも頑健でガッチリしているが、鈍重であってはならず、エレガントな気品も備えていなければいけない。
アメリカタイプは、ドイツタイプよりもスマートでスタイリッシュであるが、軽くてはならず、逞しさも備えていなければいけない。
◇骨量
ドイツタイプは、アメリカタイプよりも太く頑健で、アメリカタイプはスマートでやや軽量なのが多い。
ドイツタイプで重すぎてはいけないし、アメリカタイプで軽すぎてはいけない。
◇体積
ドイツタイプは、アメリカタイプに比べ充実している。
ただし、ドイツタイプで重すぎてはいけないし、アメリカタイプも薄くてはいけない。
◇重心
ドイツタイプに比べ、アメリカタイプは、幾分高い。
◇頚部
ドイツタイプに比べ、アメリカタイプは長く美しくスッキリしている。
ドイツタイプで、太く短すぎてはいけない。
◇前躯
ドイツタイプに比べ、アメリカタイプは上腕骨及び肩甲骨が短い。
アメリカタイプで、短すぎるのが多く見受けられる。
◇後躯
ドイツタイプに比べ、アメリカタイプは大腿骨にゆとりがある。
◇皮毛
ドイツタイプに比べ、アメリカタイプは時折色素の薄いものが見受けられる。
ドイツタイプでは、時折差し毛が見受けられるが、アメリカタイプでは殆ど見ない。
ドイツタイプでは、やや長い皮毛が見受けられ、アメリカタイプは殆どにおいて短く緊密。

<ドイツタイプ>茶牡
Jahres sieger
<ドイツタイプ>縞牡
Jahres sieger
<ドイツタイプ>茶牝
Jahres siegerin
<ドイツタイプ>縞牝
Jahres siegerin

<アメリカタイプ>茶牡
ABC National BOB
<アメリカタイプ>縞牡
ABC National BOB
<アメリカタイプ>茶牝
ABC National BOS
<アメリカタイプ>縞牝
ABC National BOB


3.稟性

私自身、生粋のアメリカタイプボクサーを飼ったことがないのでハッキリしたことは言えませんが、自分が見たり触れたりしてきたドイツタイプと、アメリカタイプに対する感想を申し上げたいと思います。

冒頭で説明したように、アメリカタイプは、家庭犬として扱いやすい犬を、ドイツタイプでは、使役犬としての警戒心や闘争本能といった資質を伸ばしてきた過去を振り返って、今のそれぞれのボクサー達を見ていると、やはりそれぞれそのタイプで、それらの性質を個性として持っているように思います。
例えば、アメリカタイプはドイツタイプに比べて、幾分扱い易いように見受けますし、反面、IPOのような使役犬訓練をアメリカタイプのボクサーに入れた場合、ドイツタイプのようにできるのだろうかという漠然とした疑問も持っています。

ただ言えることは、ドイツタイプもアメリカタイプも、ボクサーキャラクター、すなわち、陽気で明るく好奇心旺盛で、家族には最大の愛情を持ち、忠実であるという点においては、どちらも全く同じであると感じています。


4.運動

運動、すなわち動きは、具わっている体躯構成と稟性で異なってきます。
ボクサーは作業犬としての体力、すなわちパワーと持久力を兼ね備える必要性がありますが、スタンダードでは「スプリンター」という表現があり、どちらかといえば作業犬としてもパワーが重要視されているものと理解していますが、作業内容によっては、スタミナも必要で、兼備バランスの良いボクサーが望ましいことは言うまでもありません。

パワーや瞬発力では、アメリカタイプに比べ、ドイツタイプの方が圧倒していることは否めないでしょう。
しかし、スタミナや軽快さという点では、ドイツタイプに比べて薄く引き伸ばされた筋肉を持つアメリカタイプの方が有利であることは明白です。


以上、私なりに感じているドイツタイプとアメリカタイプの違いについて解説してみましたが、ここで述べていることは、あくまでも一般的な特徴で、それぞれのタイプにおいても、個々の個体に差異があることは言うまでもありません。
ただし、私自身は、同じボクサーなのにこれだけの差異が生じていることについては疑問に思っています。
スタンダードも同じである、全く同じボクサーという犬種であるからには、ここまでの違いが生じ良いのだろうかという、単純な疑問です。

私は、ドイツタイプの名犬も、アメリカタイプの名犬も見ましたが、どちらのタイプであっても、素晴らしいボクサーというのは、一見して判別できますし、それは、ボクサーとしていかなるタイプであっても失われてはいけない、力強さと気品、そして明朗活発な性質と、知性に富んだ表情を備えているからなのだと思います。

「ボクサーを飼いたい」と思った時に、やはり優先するのは自分の好みのタイプで、これは人が異性を見る時と同じでしょう。
いくら綺麗な女性でも、自分の好みのタイプでなければ興味も半減します(!?)。

貴方は、どちらのタイプのボクサーが好みでしょうか。

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