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ボクサーの繁殖


 動物の繁殖は元来自然界で行われ、淘汰もまた自然に行われるものです。
しかし、家畜となった動物については、ある意味では人の都合の良いものを求めるために繁殖されます。
例えば馬です。馬は、人が移動の手段として利用するようになってからは、より早く走れる馬を生み出すための計画的繁殖が行われてきました。勿論馬にも個体差があり、速い馬と遅い馬がいます。速い馬の中でも、遺伝的にその長所をしっかり伝えるものと、そうでないものがいます。しかし、統計上はやはり速い馬は速い仔を生み出す事がわかっているので、それならばより速い馬はどの馬なのかということに興味が注がれます。そこで、それを明らかにしようとした場が、競馬だというわけです。そして、その素質を子孫にしっかり伝える馬とそうでない馬がいます。これらを明らかにするための、一つの資料として作成されたのが血統書です。

これをボクサーに当てはめてみると、作業犬としてのボクサーには、作業に耐えうるボクサーの理想像があり、これをスタンダードとして定めています。そして、そのスタンダードに近いボクサーはどのボクサーなのかを明らかにする場が、審査会であったり訓練競技会であったりするわけです。その犬が紛れもなく純血のボクサーであり、その血筋を証明するものが血統書です。
スタンダードに近いボクサーは、バランスも良く、表情も知的で、人を魅了します。つまり、良いボクサーが増えればボクサーファンも増え、それによる底辺の広がりによってレベルも高くなり、ますますボクサーが発展していくのです。


したがって貴方がボクサーを繁殖しようとする場合、ボクサーという犬種の維持、発展のためにも、少しでも良い仔犬を得ようとするべきだと考えます。牝を飼っているから一度は繁殖したいと思い、軽い気持ちで近所にいるボクサーと交配させたりしてはいけません。
例えば、一時日本で流行したラブラドールレトリバーなどは、股関節形成不全の犬が多くて、以前から問題になっています。股関節形成不全は、その殆どが先天的・遺伝的なもので、流行りの犬だけに、ペットショップやブリーダーがラブラドールレトリバーを量産し、計画的な繁殖を無視した結果、拍車がかかったと言われます。
そしてこうした股関節形成不全の犬が広く飼われるようになり、軽い気持ちでそれらの犬を繁殖に使い、必然的に問題のある仔犬が生まれてくるのです。


野良犬ではない以上、基本的には人為的に繁殖することになります。人が繁殖する以上、このような問題を抱えた不幸なボクサーが生まれないように、責任を持って計画的に繁殖するべきでしょう。

では、良い繁殖をするためには、どうすればいいのか。
飼っている牝にチャンピオンドッグを交配するのも良いですが、チャンピオンドッグとて欠点はあります。その欠点が、もしかしたら貴方の牝が抱えている欠点と同じ欠点かもしれません。


繁殖するにあたって知っておきたいポイントについて解説したいと思います。


1.スタンダードを理解する

 先ず、貴方の牝の美点と欠点を理解しなければ、それをカバーしうる種牡選びもできません。
美点や欠点を知るためには、スタンダードをある程度理解する必要がでてきます。そうでないと、何が良くて何が悪いのかが判ら
ないからです。
スタンダードを理解するには、まず最初にスタンダードをよく読み、スタンダードについて解説している資料などがあれば、それを参考にされると良いと思います。
また、ドッグショー(審査会)に出向いて、優秀なボクサーを見るのも良いでしょうし、熱心な愛好家に貴方の牝を批評してもらうのも良いでしょう。


2.血統を理解する

 次に、血統を理解する必要があります。それは何故でしょうか。

計画的に繁殖する場合、種牡は大きな影響を及ぼします。遺伝的には、理論的にも父と母の遺伝形質は、同じ確率で遺伝されると考えて良いのでしょうが、優秀な種牡として評価されているような牡は限られており、たいていはその素晴らしい資質を確実に伝える、つまり遺伝力が大きい犬であるはずです。このような牡は種犬としての人気もありますから、つまり1頭の牡が複数の牝と交配することになります。従って、貴方の飼っている牝の子孫よりも、相手の牡の子孫の方がずっと多いということになります。だから種牡は重要なのです。
次に、これは牡でも牝でも言えることですが、その特徴を強烈に遺伝するボクサーと、そうでないボクサーがいます。前述したように、たいていの場合、人気のある種牡というのは、その犬自体が優秀で、しかも遺伝力も強いものです。この種牡が交配に沢山使われると、このライン(系統)が確率されます。
こうした点を考慮するためにも、ある程度血統について知っておいた方が良いでしょうし、全く知らずに交配させてしまって、血統書が出来上がってはじめて「異母兄妹どうしの交配であることが判った」などということがないようにしたいものです。


3.繁殖の手法

 2項で述べた「ライン(系統)」を応用した、繁殖のテクニックがあります。
「計画繁殖」の手法の一つと言えると思います。

主な手法は以下のとおりです。


◆異系繁殖(アウトクロス)
父母が全く違う系統の繁殖で、ボクサーは歴史も浅く、また海外からの輸入犬の数も限られていることから、完全なアウトクロスを実現するのは容易ではないかもしれません。
敢えて申し上げれば、ドイツタイプとアメリカタイプの組み合わせによる繁殖は、異系繁殖と言えます。

◆同系繁殖(ラインブリード)
父母の先祖が共通した血統の繁殖です。
ドイツタイプでは、そもそもの系統数が少ないですから、絶対数が少ない日本では、これもなかなか難しいかもしれません。


◆家系繁殖(ラインブリード)
定義としては、父母の5代祖~10代祖の間に共通の先祖がある繁殖です。
このあたりになると、日本でも計画的な繁殖が可能だと思います。


◆近親繁殖(インブリード)
定義としては、父母の4代祖以内に共通の先祖がある繁殖です。
日本ではこれが最も一般的かもしれません。
近親繁殖は、さらに以下の3つに分けられています。


◎極近親繁殖
定義としては、仔犬の2代祖以内に共通の先祖がある繁殖です。
つまり、親子、兄弟、祖父母と孫という配合になります。
この配合は、十分にその系統の良さと悪さを理解している人のみが行う繁殖だと思います。
タイプが強烈に遺伝されますが、つまりは良い点も欠点も強烈に伝わるということです。
過去に、ヨーロッパや日本でも、この繁殖手法で成功した事例が沢山ありますが、個人的な感想としては、その後も代を経てラインを継続させるような種牡を輩出するのは難しいと感じています。
それは、極近親繁殖犬であるが故に、暫くの代に渡って交配相手が制限されるからでしょう。

◎近近親繁殖
定義としては、父母の3代祖以内に共通の先祖がある繁殖です。
叔父と姪、従姉妹同士という配合になります。

◎遠近親繁殖
定義としては、父母の4代祖に共通の先祖がある繁殖です。
これが最も多い近親繁殖の配合でしょう。
馬学にならって、3-4(父方の3代祖と母方の4代祖に共通の先祖を持つ組み合わせ)あるいは4-3という配合を、「奇跡の血量」と言い、その先祖犬が優秀である場合は繁殖の成功する確立が多いと言われていますが、
どうでしょうか?


安定した系統繁殖例 1


安定した系統繁殖例 2


以上、繁殖の手法について簡単にまとめてみましたが、これらはあくまでも机上の定義です。
例えば、Aというボクサーの2-2の極近親繁殖でも、父はとてもAに似ているが、母は全く似ておらず、Aの遺伝子を受けている確率が極めて低いと思われる場合、「極近親繁殖」としての狙いどおりの結果がでないことも往々にしてあり、むやみに血の重複という医学的デメリットだけが残ることにもなりかねません。

全ての動物は遺伝によって生を受けます。
使う、使わないは別にして、ボクサーを繁殖する時に、少しでもこうした手法についてお考えいただければ良いのではないかと思います。



4.してはいけない繁殖

最後に、してはいけない繁殖について、いくつか挙げてみたいと思います。

【スタンダードにおける失格犬での繁殖】
・ホワイトマーキングが全身の1/3以上ある犬での繁殖。
・片睾丸の牡での繁殖。
・反対咬合の犬での繁殖。
・目色が極端に薄い(スタンダード上の4a以上)犬での繁殖。
・欠歯がある犬での繁殖。
・人を噛む資質のある犬。
・極端にシャイな犬。

【健康上に問題があるもの】
・心臓疾患の犬での繁殖。
・軽度以上の股関節形成不全の疑いがある犬での繁殖。
・生まれた時、口蓋裂だった犬(軽度重度に関わらず)。

これらはいづれも動物としての能力的見地からは繁殖可能でしょうが、全てスタンダードの精神からは外れており、またこれらの遺伝形質の継承は侮れないものがありますので、不幸なボクサーを誕生させないためにも絶対に繁殖に使うべきではありません。

また同様に、意味の無い、机上のみの近親繁殖をいたずらに行うのも避けた方が良いでしょう。
私達の愛するボクサーの未来は、ひとえに私達の手に委ねられていることを忘れたくないものです。


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